干潟の夏
初夏の干潟は、気温も遠浅の干潟を歩くのにちょうど良くなり、潮もよく引くので、自然観察にはもっとも適した季節です。
小櫃川河口干潟名物のアシハラガニは、乱獲され数は減ったものの、この季節、大型個体はアシ原を離れ、前浜やクリークに大挙して繰り出し、エサをあさります。小型個体は、アシ原に残り、これまでどおり穴を掘って過ごします。生活場所が分かれているのは、共食いを避けるためです。干潟で穴を掘って生活するカニが多いのは、外敵、暑さ寒さ、乾燥防止や潮に流されないようにするための他、アシハラガニ、ケフサイソガニ等の雑食のものではそういった事情もありそうです。
軟泥質のクリークにいるヤマトオサガニは、大型の鳥類が好んでねらうカニです。折りたたみ自由な長い柄の先に目をつけていて、まさに四方八方の視界で警戒ができます。
岸付近やクリーク沿いの泥質のところには、チゴガニがいます。その名の通り小さく愛らしいカニです。この種は、集団でテンポを合わせてハサミを上下するダンスを踊ります。白いハサミが陽ざしに美しく映えます。遊んでいるわけではないのでしょうが、何かユーモラスです。なわばり意識が強く、巣穴は等間隔にびっしりと作られています。
岸付近の砂質のところには、コメツキガニがいて、砂をほおばっては表面のエサをこし取って残りかすを砂ダンゴにして巣穴の周りにならべます。そのシーンをじっと見てみると、ムニューッと砂が膨らんできたかと思うとハサミで手際よくチョッキンと切っていく職人芸です。甲羅の形はおむすび型だし、顔に”おべんとう”までつけている、やっぱり”米つき蟹”です。
砂浜に出てみると、潮干狩り中にもよく見かけるオサガニ、ケフサイソガニ、マメコブシガニがいます。オサガニは、ヤマトオサガニの近縁で非常によく似ています。同時に見せられたら、じっと目の間の突起を見比べるしかありませんが、しっかりと棲み分けているので、場所で判断が付きます。マメコブシガニは、小さなまん丸型のかわいらしいカニで、カニのくせに前に歩きます。捕まえると、死んだふりをしたりします。
ところで、カニ類の観察、中巣穴に隠れてしまっても、じっと辛抱していれば、声を出しても、また活動を再開するので覚えておいてください。カニは動くものに対する目は良いのですが、耳はほとんど聞こえません。子供たちの人気者のカニは、その点で子供自身とも共通するようです。
カニ類以外で、夏に目立つものを紹介します。岸辺の流木やゴミ、石づみのまわりで、ゴキブリのようにはい回るのがフナムシ。カニの親戚で昆虫ではありません。ドキッとさせられるありがたくないものですが、本当のところは、分解しにくい植物繊維も片づけてくれる掃除屋です。干潟の生態系に不要な生き物はいません。逆に歓迎されるものは、干潟の潮だまりに取り残されてしまったクルマエビでしょう。昔はたくさんいたそうですが、今はハマグリ同様、滅多にお目にかかれません。奇妙なものは、タマシキゴカイの卵塊。人魂のような形にブヨブヨの感触が潮だまりでユラユラ揺れています。それにこのゴカイのふん塊も、砂でできているにしては形がやけに生々しいです。
砂浜におへそのようにへこんでいるところがあったら、その下を掘ってみましょう。でべそのようなニンジンイソギンチャクが出てきます。
巻き貝の中に隠れて移動式借家にするのは、ユビナガホンヤドカリ。元の家主よりずっと早く動きます。イボキサゴやウミニナの殻を使います。砂浜自体を宿にしているのは、ニホンスナモグリといって肌色の小さなエビに見えますが、これもヤドカリの仲間です。別名ユウレイジャコ、アナジャコともいいます。
干潟の夏は、さまざまな底生動物のひしめきあう季節です。
「すだて」で見られる魚としては、ボラ、コノシロ、スズキ、クロダイ、アジ、イシモチ、シロギス、ヒイラギ、サヨリ、ダツ、マハゼ、アイナメ、コチ、イシガレイ、アカエイなどがいます。
この中でアカエイは、尾に毒のあるトゲを持ち、刺されると激痛とともに傷口周辺は腫れ、時にはショック症状を起こすこともありますので、気をつけてください。
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夏が近づくと、日陰のないアシ原はかなり暑くなります。その中で、セッカが「ヒッヒッヒッ……、チャッチャッ」と、飛びながら元気に鳴いています。また、オオヨシキリが「ギョギョシ・ギョギョシ」とアシの高い茎に止まって、時には取り残された電柱の上で鳴いています。
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上空では、ヒバリがせわしなく羽ばたきながら、複雑なさえずりを披露しています。どれも自分のなわばりを宣言するために、精一杯鳴いているのです。ときどき、キジの鳴き声も聞こえてきます。でも、その数は、セッカたちに比べてずいぶん少ないようです。
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干潟の方へでると、春にくらべ取りの数がずいぶんと少なくなっています。波打ち際や時には池のところで、コアジサシがダイビングをし、さかんにエサの小魚を捕っています。遠浅の海のかなたに、ダイサギやアオサギがエサを探している姿が見られますが、強い陽ざしで、しかも陽炎(かげろう)に揺れ、はっきりと見ることはできません。気がつくと、近いところをシロチドリが歩き回っています。
初夏の海岸では、からだに不釣り合いな大きな花のハマヒルガオが、海岸線のすぐ後ろで咲き出します。その後ろの砂丘の高まったところで、コマツヨイグサ、アレチマツヨイグサの黄色い花が夕方から開きだします。
干潟の前面に通じる道の所々では、アシ原の中に、チガヤ群落が広がります。一斉に白い穂を見せ、風になびく様子は壮観です。その花が散った後に、ヤマアワの穂がたれだします。
7月下旬からは、アイアシの穂が目立ち出す番です。そしてハマゼリの白い穂が、アシの間に見つかるようになると、秋が訪れます。
7月には海草類もよく目につきますが、海岸線近くに流れ着いているのは、緑色で細い葉状のアオサと、褐色の糸状のオゴノリ。後者は煮ると緑色になり、サシミのツマとして使われています。7月上旬の浜は、打ち寄せられた藻でいっぱいです。
海岸から500m〜600mの所には、よく藻類の生えている藻場がありますが、そこになる緑色の草はコアマモと呼ばれ、藻類のように見えますが、夏に花を咲かせる顕花植物の一つです。その辺には、オゴノリも多く見られます。
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